■AppleがTVをなかなか発売できない理由
噂は随分前からあるのに、AppleがTVをなかなか発売できない 理由は何か?
理由はシンプルだ。中身を作る見込みが立たないから。中身というのは、TV番組の視聴体験のことだ。
TVで革命を起こすためには、ハードウエア(パネル・リモコンのデザイン、UI)だけでなく、視聴体験そのものを再定義する必要がある。それが簡単にできる状況にない。
AppleがiPodを爆発的に普及させた理由を思い出して欲しい。iPodという優れたハードウエアだけではなく、iTunes Music Storeという中身を作ったからだ。音楽を手軽に購入できる一連の視聴体験(ソリューション)を向上させたことで、結果としてiPodが爆発的に売れた。
今のAppleは、TVの視聴体験を向上させるメドが(おそらく)たっていない。iTunes Music Storeが無いiPodを想像してほしい。iTunes Music Storeが無い状態で、iPodはWalkmanを圧倒できただろうか。今、そういう状況にあると思う。これが、TVを発売できないただ1つの理由だ。
■現状のTV視聴体験とそれを改善できない理由
では、なぜTVの視聴体験を向上することができないのだろうか。3つに分けてみた。
(1)現状のTV視聴体験:「いつでもどの端末でも」を実現できない
⇒理由:TV番組のアーカイブをクラウドに置けない。公衆送信権という法律が邪魔をする(日本固有の問題)。
(2)現状のTV視聴体験:TV番組を「探せない」「シェアできない」
⇒理由:TV番組データが構造化されていない。Webのように、アドレスで番組を特定できる仕掛けがない。手軽に検索できない。
(3)現状のTV視聴体験:見逃したTV番組を「1クリックで購入」できない
⇒ 理由:コンテンツホルダーの協力がえられない。
これを見るとわかるように、Apple自身で解決できる項目がほとんどなく、発売する国や組織、多くの企業の協力や調整が必要になるからだ。それが手こずっているとも言える。ジョブズなきAppleに、どの程度の交渉力が残っているか。そこにかかっている。個人的にはAppleにイノベーションを起こしてもらって、次世代のTVを発売してほしいと思う。
■TVはそもそもどうあるべきか?
TVについてここまで書いてきて、今から全く逆のことを書こうと思う。
現状の視聴体験(1)~(3)が改善された次世代TVが発売され後、我々の生活はどう変わるだろうか?
TVに合わせた生活をする必要がなくなる。いつでもどこでも見たい番組が見れるから。録画するという行為がなくなる。番組を見逃したということもなくなる。
それで、我々は本当に幸せになるだろうか?便利にはなるだろう。「便利になるから幸せ」とは限らない。
見逃してしまったTV番組は、見逃さずに見れたら、そのほうが幸せだったのか?うっかり見逃した時間を使って、スポーツをしたり本を読んだり誰かと遊んでいたりブログを書いたとしたら?それでもやはり、TV番組を見逃さずに見る時間に使ったほうが良かったのだろうか?
私はガジェットが大好きだから、便利なツールやサービスが次々に発売されるたびに、ウオッチしてブログを書いて、もっとこうなればもっと便利になるとか、ずっと思ってきた。
でも、少し、違った側面があることに、最近、気づき始めている。
TVって何だろう?TVって、万人に向けた製品で、今の時代にフィットしてこなくなったというのはよくわかる。ネットのほうが、自分の見たいものが見れるってことだよね。
現状の視聴体験(1)~(3)が改善されると、TVはよりパソコンやネットデバイスに近くなる。TVという存在価値そのものを考えなおすことになるのかもしれない。
「TVの視聴体験をどのように改善すべきか」ということを考えるよりも、「TVという装置で実現していたことをPCやスマートフォン・タブレットに変えた時に何が起きるか」を考えてみたほうがいいかもしれない。それで良いのか、ということを。
TVは「みんなで同じものを見る」という、最後のデバイスになるかもしれない。本当にそれで幸せか、今はまだよくわからない。
以上。